そこで、遺伝子の入った核を破壊した卵子を用意して、そのなかに2個の精子を融合して入れてやれば分裂増殖ができるだろう、という発想が出てくる。 三重県にある水産庁養殖研究所の細胞工学研究室では、93年にアマゴの精子同士を使って子供を瞬化させることに成功している。
こちらは童貞生殖とでもいうのだろうか。 オスの細胞の場合は、よく知られているように、性染色体としてメス型のX染色体とオス型のY染色体が含まれている。
そのため、Y染色体をもつ精子とX染色体をもつ精子の融合ならオス、X染色体同士の融合ならメスといった具合に、精子の組み合わせ次第でオスにもメスにもなるのが卵子融合とは大きく異なる点だ。 まだ魚類の段階での成功であることからもわかるように、決して簡単な技術ではなく、まして痛乳類にも応用できるのかどうか、はっきりしていない。
しかし、家畜生産の効率化という側面から見たら、魅力的な生殖技術であるのは間違いないだろう。 ここで、このような畜産技術の進展についての是非を論じるつもりはない。
が、参考として次のような試算があることだけは紹介しておきたい。 私たち人間が食物から得ているエネルギーは、もとをただせばほとんどすべて太陽エネルギーから得られたものである。
日光のエネルギーによって育った植物を食物としたり、植物を食べて育った動物の肉を食べている。 その太陽エネルギーの利用効率を計算すると、植物では一・数パーセント程度の固定率となる。

しかし、これを家畜に食べさせて肉として得るとなると、さらに効率が落ちて利用効率は0.1パーセント以下になってしまう。 それほど、自然から得られるエネルギーから見て、肉食のエネルギー利用効率は悪いのである。
その一方で、地球上の人口は増え続け、近い将来にエネルギー危機が問題となるのは目に見えている。 このアンバランスを解消する技術のためには、単にポスト石油・ポスト原子力発電を考えるだけでなく、肉食の効率化も避けられない課題となるはずだ。
畜産技術関係者の発想がそこにあるからこそ、この奇妙な動物づくりに見られるような研究が続けられているのである。 ところで、こうして見てくると、家畜を中心にした動物の生殖技術は、原理的にヒトという哨乳類にも応用が可能であることに気がつく。
実際、いま人間の不妊治療として行われている人工受精、体外受精、そして顕微受精など、すべてが畜産における生殖技術として開発され、それが人間へも応用されてきているのだ。

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